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東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)81号 判決

原告の請求の原因及び主張の一ないし三は、当事者間に争いがない。

よつて審決理由を精査すれば、本件発明は引用例と実質的に同一であるから特許法第二九条第一項第三号の規定により特許を受けることができないとした審決には違法の点はないと認める。

原告は、本件発明の特徴の一つは、二次シール部材が弾性を具備し、組立てられた状態では、二次シール部材自身の弾性によつて、二次シール部材の両端部がそれぞれ機械の一部分もしくは回転軸と環状部材の受座とに錠止され、また一次シール用環状部材が相手方に圧押される構成を有することにあるところ、審決は、引用例に記載されていない本件発明の構成中の右重要事項を、記載されているものとし、誤つた判断を前提として本件発明は引用例と同一であるとしたものであるから違法であると主張し、その主張を裏付ける事実として、先ず、本件発明は二次シール部材自身が加圧作用を与えるように構成され、別個の加圧装置を省いたことに新規性を有するものであるが、引用例における密封リングは板ばね148という加装圧置によつて圧力を受け、「相互に密封すべき二つの部材」に対し触圧せしめられるのであつて、加圧装置が不可欠のものであることを指摘し、右の点に両者の相違が存する旨を主張する。

しかしながら、本件発明には、「加圧装置」の具体的手段が明記されてはいないものの、本件発明の特許請求の範囲には、「二次シール部材が軸線方向に圧縮されて組立て状態におかれたとき………」と加圧作用が機能的に表現されており、本件発明においても、二次シール部材が相互に密封すべき二つの部材と係合するためには、加圧作用を行なう手段が存在しなければならないことが明らかであることは被告主張のとおりであり、そもそも加圧作用を行なう手段が存在しなければ、二次シール部材に弾力性があつても、これが軸線方向に圧縮されるということは起り得ないと認められる。これを、願書に添付された図面の第一図(別添第一図)についていえば、板ばねのような弾性部材の記載はないが、トラツク軸キヤツプ19自体が右の二次シール部材に対する加圧作用を行なう手段に相当し、これがなければ、二次シール部材の「内外端縁が前記機械の一部もしくは前記回転軸と前記環状部材の受座とにそれぞれ摩擦的に錠止され」る(特許請求の範囲の項の記載)ことはあり得ない。一方、引用例(第三欄第七〇行ないし第七三行、訳文第一〇頁末行ないし第一一頁第二行)には「後壁124と座金144との間には円形板ばね148が配置され、このばねは常態では前記座金を前方に向つて密封リング142に対して弾発している。」と記載され、板ばね148が密封リング142を加圧していることが示されているが、右板ばねは加圧手段としては必須のものとは認められず、スラスト座金144を軸方向に押圧するようにする限り、すなわち、この板ばねの代りに例えば弾性のない円形座板をスラスト座金144と外方シエル部材118の後壁124との間に密着挿入するか、スラスト座金をその背後からボルト又はナツト等により、弾性部材を介在させることなく、密封座金130に締付け又は押圧するか、あるいは外方シエル部材118を直接スラスト座金144に接触させれば、いずれも密封リング142、160を加圧してそれらは円形板ばね148が密封リング142、160を押圧するのと同様の作用をし、引用例発明の目的を達し得るものと考えられ、特に右の最後の方法をとるときは、本件発明の添付第一図の場合と異なることがないものと認められる。

以上のとおりであるから、原告の主張において、本件発明においては二次シール部材自体の弾性以外に加圧装置は必要がないのに対し引用例においてはこれが必要である点で両者は異なるとするのは、理由がない。

原告は、次に、本件発明における「弾力物質製二次シール部材」とは、別個の加圧装置を使用することなく一次シール用環状部材を軸線方向に押圧し、その相手方環状部材との間の摺動面に必要な面圧を与えることができる程度の大きな弾力性を有することを意味するのに対し、引用例における密封リングはテフロン製であつてかなり硬く、別に設けられた板ばね148によつて圧力を加えられて「相互に密封すべき二つの部材」に押しつけられ且つ右部材の一つを相手方に密接させるものであつて、両者はその点でも異なる旨の主張をする。

しかしながら、本件発明における弾力物質製二次シール部材が別個の加圧装置を使用することなく一次シール用環状部材を軸線方向に押圧する作用を有するものでないことは、前説明のことからも明瞭であるから、原告の主張自体理由がないのみならず、被告主張のように、本件発明の特許請求の範囲には、二次シール部材に関し、「弾力物質製」なる限定があるだけで、材料を特定する具体的構成は記載されていないところ、引用例に記載の密封リングもシール効果を奏し得る程度に十分な弾力性を備えているものと認められる(被告指摘の引用例部分―第二欄第一四行ないし第二三行、訳文第五頁第四行ないし第九行、第三欄第四二行ないし第四八行、訳文第九頁第一〇行ないし第一四行、第三欄第五七行ないし第六二行、訳文第一〇頁第六行ないし第九行参照)から原告の右主張も理由がない。

以上のとおり、本件審決にはこれを取消すべき違法の点はないから、その取消を求める原告の請求を理由なしとして棄却する。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

機械の一部分と該部分内に軸承された回転軸との間に介装されるシール組立体にして、少なくとも一つの一次シール用環状部材と弾力物質製二次シール部材とを備え、前記環状部材は軸方向及び半径方向に分かれて延びその間に前記二次シール部材を受け止めるための受座を形成する面を有し、前記二次シール部材は軸方向及び半径方向に弾性を具備する截頭円錐形の輪状体をなし、その半径方向内外両端縁中の一端縁が前記環状部材の受座に受け止められ他の端縁が前記機械の一部分もしくは前記回転軸に対し直接接触した状態で、前記二次シール部材が軸線方向に圧縮されて組立て状態におかれたとき、前記二次シール部材は変形して半径方向に弾力的に圧縮され、その内外端縁が前記機械の一部もしくは前記回転軸と前記環状部材の受座とにそれぞれ直接摩擦的に錠止され且つ前記環状部材の一部を機械の封塞部分に摺動的に圧接させるように構成されたシール組立体

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

第一図

<省略>

引用例第一図

<省略>

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